東京理科大学都市気象研究室
本サイトで使用している熱中症リスク指標は、熱中症救急搬送者の搬送時の深部体温データと累積搬送割合の関係を年代・性別ごとに定式化したものです。説明変数を深部体温とすることで返される熱中症累積搬送者割合を熱中症リスクとしています(図1)。我々の知る限り、熱中症救急搬送者のデータを用いたリスク指標はこれまでに例がなく、非常に独創性の高いものになっています。リスク評価に必要な深部体温は、日常的な連続測定が困難なこと、測定には身体的な負担が大きいことを踏まえ、本サイトでは人体の体温調節機能を定式化する人体熱収支モデルを用いて深部体温を推定しています。
人体熱収支モデルには仲吉らが開発した5ノードモデル人体熱収支モデル(5NM)を使用しています。5NMは人体を深部、筋肉、脂肪、皮膚、血液層の5つのノードに分割し、各ノードの温度の時間発展を解析します(図2)。気象5因子(気温、湿度、風速、日射、輻射熱)と個人の属性(年齢、性別)や状態(活動量、着衣)を入力することで、人体の温熱生理応答を計算します(図3)。5NMの特徴として、必要な入力パラメータが少ないこと、計算負荷が小さいことが挙げられます。また、5NMは十分な精度で深部体温を推定できることが明らかになっています。 本サイトでは、ユーザーが入力した年齢、性別、身長、体重、活動量、着衣量を個人の属性・状態として人体熱収支解析を行います。また,気象データには気象庁のメソ気象予測データを用いています.人体熱収支解析によって推定された深部体温を、熱中症リスク指標の説明変数とすることで、リアルタイムで個人の属性・状態に沿った熱中症リスクの評価・予測を可能としています。
WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)は日本で幅広く利用されている熱中症リスク指標です。WBGTは黒球温度、湿球温度、乾球温度をもとに算出される値であり、湿度、放射(日射・輻射熱)、対流(風速)、気温の影響が考慮されています。容易に算出することができますが、人体の熱収支は考慮していません。環境省と気象庁はWBGT値に基づいて令和3年度から熱中症警戒アラートを全国で運用しています。 本サイトでは、ユーザーが入力した年齢、性別、身長、体重、活動量、着衣量を個人の属性・状態として人体熱収支解析を行います。また,気象データには気象庁のメソ気象予測データを用いています.人体熱収支解析によって推定された深部体温を、熱中症リスク指標の説明変数とすることで、リアルタイムで個人の属性・状態に沿った熱中症リスクの評価・予測を可能としています。
UTCI(Universal Thermal Climate Index)は気温、湿度、風速、放射などの環境要因から人間が感じる熱ストレスを評価する指標です。UTCIはFialaのマルチノード人体熱収支モデルに基づいて計算されます。Fialaのモデルは人体を12の部位に分割し、各部位に対して温熱生理応答を計算しています。これにより、 人体の熱応答を予測し、快適性や熱ストレスレベルを評価することができます。 しかし、実際のUTCIの算出にはFialaのモデルをエミュレートしたものが使用されており、個人の属性や状態が反映されていません。
SET*(Standard Effective Temperature)は空間の快適性を評価するために作成された温熱感指標です。人体を2つのノード(深部、皮膚)で表現した2ノード人体熱収支モデル(2NM)から算出されます。算出には気温、湿度、風速、平均放射温度、着衣量、代謝量が必要になります。2NMは小さな計算負荷で済みますが、運動による代謝熱の変化が即座に深部体温に反映されるため、深部体温の応答遅れを評価できないといった課題があります。
PET(Physiological Equivalent Temperature)は気象条件(気温、湿度、風速、放射)を考慮してSET*と同様に2NMから算出される温熱感指標であり、ヨーロッパでよく利用されています。